MtGOX閉鎖にみる問題の本質

MtGOXの閉鎖がTVで報道され、普段の生活でもビットコインというキーワードが飛び交う様になり、暗号通貨も遂にクリティカルマスを超えて来たなと思うこの頃です。

最近ビットコインを知った人にとっては、今回の騒動を円天と重ねて見る人も多いようですが、問題の本質はそこではないように個人的には思います。

MtGOXとその被害者という構図で見れば事件は円天そのままなのですが、そもそもMtGOXは中央銀行でも何でも無いんです。
ビットコイン中央銀行を持たない暗号通貨で、円天はL&Gが中央銀行として発行していた通貨です。
もちろん最大の取引所が閉鎖したことによる、ビットコイン市場への影響は大きいのですが、かといってこの件自体がビットコインの価値を揺るがすとは思っていません。※1

問題の本質は、ビットコインは偽造は難しいけど、強盗するには簡単となってしまっていることだと私は思っています。

proof of workといった仕組みによって既存通貨よりもセキュアとなった暗号通貨ですが、その通貨を保管する企業や個人の財布は現実世界以上にアンセキュアになっています。

MtGOXが真実を語っているかは分かりませんが、「バグの悪用により(ビットコインが)盗まれた可能性が高い」というのが閉鎖の原因です。
現実世界で言うなれば銀行に預けてたお金が丸ごと銀行強盗にあってしまいましたということです。
しかも、同業他社は既に対応していたバグだったので、MtGOXだけ金庫室の鍵がかかっていませんでしたという感じです。
http://blogos.com/article/81211/

また、ビットコインを不正取得する「ポニー」のようなウイルスも出現し、ビットコイン財団がウォレットをオフラインで管理するよう呼びかけていたりもします。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA1N09320140224

暗号通貨の世界では強盗は銀行や家を襲う必要が無くなりました。
しかも、それは本物の銀行や家を襲うより遥かに簡単で低リスクなんです。
加えて中央銀行が無いので被害者救済策もありません。

これでは、怖くてこの通貨は使えないですよね。

もちろん暗号通貨の世界において銀行や取引所の役割を担う企業はセキュリティに投資する必要がありますし、今後はそれが出来ない企業は淘汰されていくでしょう。
そもそも取引所と名乗っている企業が銀行の役割を持っているということ自体もおかしいので分業も進んで行くでしょう。※2

しかし、一般人にとっては中々そうはいかないと思います。
襲う側が襲われる側よりも常にリテラシーが高いため、簡単に奪われてしまうでしょう。
今回のように杜撰な企業に預けた結果、その企業が襲われる。
取引所だと騙って近づいてきた詐欺企業に騙されて奪われる。
ウイルスに感染して奪われる。
こういうリテラシーの低さが原因となる部分に関しては、ビットコインの通貨としての堅牢性は何の役にもたたないでしょう。

暗号通貨が既存通貨のように使われる様になるためには、暗号通貨の仕組みはおろかコンピュータセキュリティのリテラシーも低い人にとっても安全に簡単に使えるような通貨にならなくてはいけないんです。

金本位制そのもののビットコイン、そこに信用制度を付加したRipple、他にも色々なプロジェクトが立ち上がっていて暗号通貨の世界は順調に前進しているように見えます。
暗号通貨の価値が安定し、通貨として普及する為に次に必要とされるのはリスクの取引だと思っていましたが、通貨を支えるための金融インフラ全体の整備が求められているような気がします。

※1 既に相場は反発していますね
※2 取引所というよりはOTC-FXブローカーのような感じですよね

Rippleの仕組み

Bitcoinの初期の開発者達が集まって目下開発中のRipple。
Bitcoinの欠点を補った暗号通貨として注目が集まっていますが、こちらも国内の情報がほとんど無いので、その仕組みについて説明していきたいと思います。


1.Rippleとは
ややこしいんですが、Rippleとは新しい通貨そのものではなく、暗号通貨を使った新しい取引プロトコルです。
後述する仕組みのため、取引に使う独自の暗号通貨としてRipple(XRP)を使っていますが、Rippleの目的はdecentralized(非中央集権)された取引ネットワークを作ることにあります。

このdecentralizedというのはBitcoinの時からあったように、取引を仲介する第三者が増えるほど取引コストは高くなっていくんだから、仲介機関がゼロになれば取引コストは極限に下がるよね、という考え方に立脚しています。

2.Rippleの開発者
Rippleを中心的に開発しているのはOpenCoinという会社です。ファウンダーはソーシャルレンディングの大手Prosperを立ちあげたChris Larsenと、Bitcoinの初期の開発者であり、Mt.Goxを立ち上げたJed McCaleb※1の2人です。
このChris Larsenが関わっているというのが結構重要ポイントで、RippleはBitcoinの取引にソーシャルな関係を持ち込んだ仕組みなんです。

Rippleの肝は、IOUという債務を使った取引なんです。この仕組みによって極めて低コストな取引を可能にしているのです。

もうお分かりの方もいるかもしれませんが順を追って説明していきます。

3.IOUを使った取引の仕組み
ここにAlice, Bob, Carolという3人がいます。この3人はお互いに友人で、一定の信頼関係があり、100ドルくらいのお金なら貸しても良いと思っているとします。

今、AliceはBobから100ドルを借りていたと仮定しましょう。この状況でBobはCarolから100ドル分の物を購入しました。この時、BobはCarolに対して「支払いの100ドルはAliceから貰ってね。」と伝えます。
これがIOU(あなたに借りがある)を使った取引です。BobはCarolに対してドルで支払うのではなくAliceのIOUで支払いを済ませたのです。

CarolはAliceに今すぐ100ドルを現金化してくれと要求することも出来ますし、いずれAliceから100ドル相当の何かを受け取る時の対価としてIOUを返しても良いはずです。

つまり、この3人の中では、100ドルを上限とした、円やドルを使わない通貨圏が成立しているのです。

では、この3人の通貨圏はどの様にして拡張することが出来るのでしょうか。

ここにDaveという新しい人物が加わりました。彼はCarolとは友人だけれども、他の2人のことは知りません。Carolは彼のことを信頼していて、他の2人と同様に100ドルまでなら貸しても良いと考えています。

ある日、DaveがAliceから100ドル分の買い物をしました。この2人は知り合いでは無いので、基本的にDaveは現金でAliceに100ドルを支払わなくてはなりません。しかし、Daveは3人とは別の国に住んでいるため、支払いにコストが掛かってしまいます。

ここでDaveはCarolがAliceと友人であることを知り、Carolにこう頼みました。
「いつか君に100ドル返すと約束するから、君からAliceに100ドルを支払っておいてくれないか?」
Carolはこれを了承し、Aliceに対して自分のIOUを100ドル分発行すると共にDaveから100ドル分のIOUを受け取りました。
Carolに仲介してもらうことで、DaveはIOUによる支払いネットワークに参加することが出来ました。

次に、EveというDaveと同じ国に住む人物を加えてみます。
彼女はDaveとは知り合いだけれども、他の3人とは知り合いではありません。Daveは彼女のことを信頼していて100ドルまでなら貸しても良いと考えています。
そして、ある日EveはAliceから100ドル分の買い物をしました。
Eveは、DaveがCarolを知っていて、CarolがAliceを知っていることを突き止めます。
そして、Daveにこんなことを頼みます。
「私があなたに100ドルのIOUを発行するから、あなたはCarolに100ドル分のIOUを発行して、Aliceへの支払いをお願いしてくれないかしら」
Daveがこれを了承すれば、EveはDaveとCarolを通じて支払いネットワークに参加することが出来ます。
この支払い方法の優れているところは、AliceがCarolからドルを貰い、EveがDaveに支払いをすれば取引コストが発生しないことです。
もっとも、CarolとDaveのどちらかが100ドルを超えて貸借しない限りといつ条件付きですが。

もうお分かりの通り、RippleはP2Pを使ってこのIOUを使った取引を再現しようとしています。

ネットワーク上で、自分が信頼出来る人物を探して彼らに与信枠を設定します。
するとネットワーク上にIOUのトポロジーが出来るので、これを元に買い手と売り手の間にある最短のノードを作り買い手側のノードから売り手側に向けてIOUを発行していきます。

与信枠を超えた場合は、自分のIOUを何らかの手段で回収すれば良いのです。この時の手段は現金で支払ってもいいし、物や労働を売ってIOUを買い取っても良いです。

買い手と売り手がIOUのネットワークによって繋がっている限り、Rippleの通貨圏では極めて低コストにお金を動かすことが出来ます。

3.通貨としてのRipple
IOUという借金のカタは、受け手が了承してくれれば、色々な通貨で発行することが可能です。それこそ円で発行しようが、ドルで発行しようが、Bitcoinで発行しようが自由なのです。もちろんRipple内の独自通貨で発行しても構いません。
これがRippleが純粋な暗号通貨ではなく、取引プロトコルと言われる所以です。

では、なぜRippleという通貨を新たに作ったのでしょうか?

答えは、悪意あるネットワークの取引に対抗するためです。

Ripple上での資金移動コストは完全なゼロではありません。実は取引する度に極めて小額ですが、ネットワークの利用料としてRippleを支払う必要があります。
また、ここで支払われたRippleは誰かの手に渡るわけでは無く、単純に破棄されます。

なぜそんなことをするかと言うと、Rippleのネットワークに大量のトランザクションを流す参加者を防いで、ネットワークの信頼性を保つためです。

RippleもBitcoin同様、通貨の発行量の上限を始めから定めています。1,000億ripple(XRP)がネットワーク上に存在し、これ以上増えることはありません。

Bitcoinでは、ネットワークの信頼性を高めるためのproof of workに貢献するというマイニングという行為に対してBitcoinを発行しています。一方、Rippleでは1000億通貨単位を最初からネットワークに供給し、以後、ネットワーク上でトランザクションが起こるごとにRippleが減少していくという設計になっています。

Bitcoinが悪意のある攻撃者からネットワークを守るため&Bitcoinを入手するために多大なネットワーク負荷がかかっている※2のに対して、Rippleではネットワークに負荷をかけ過ぎると価値が減少するという逆の仕組みになっています。よって、スキャルピングやHFTといった短時間で何回もの取引を起こす投機的な活動はすればするほど損をするので防がれることになります。そういった取引が流動性を提供することはあるので、100%正しいとは思いませんが。

いずれにせよ、これもBitcoinとRippleの大きな違いの1つになります。

4.Proof of workに代わる仕組みConfirmation
Bitcoinのproof of workは美しい仕組みでしたが、一方でBitcoinが普及すれば普及するほど非エコであることは先述の通りです。
また、取引がネットワークで承認されるには平均10分待たなくてはならないという制約も大きいです。Bitcoinの相場が現状のように乱高下していると、10分経つ間に自分が受け取ったBitcoinの価値が半減する可能性だってあります。

Rippleはproof of workに代わる仕組みとしてConsensusを採用しました。

Rippleでも全取引の記録をLedgerとして分散データベースに持ちます。ここまではBitcoinと一緒です。
しかし、Rippleはハッシュ値計算という数学的な問題を解く解くことによって取引記録を作ることはしません。
その代わりに、特定の承認者達によって取引記録の合意が得られた時に新規の取引をLedgerに追加します。

この承認者のことをValidatorと呼びます。この承認者達はネットワークの信頼性を担保出来る人物というわけではなく、単に結託してネットワークを騙そうとする人間では無いという条件で選ばれます。
結託する可能性は無いので、そういったValidator達の合意を得た取引は信頼されるに足るだろうという理屈になっています。
この合意形成のプロセスは5-10秒に1回行われます。数学的な計算が必要ないため非常に早く取引をLedgerに追加出来るのです。

これ以上の細かい説明は省きますが、Rippleは取引記録の承認にも参加者間の信頼という要素を使うことで、proof of workほど確かではありませんが信頼性を担保しています。

5.Rippleの課題
以上、Rippleの解説を簡単にしてみました。
オープンソースであり、Decentralizedであり、暗号通貨であるというBitcoinとの共通点を持ちつつも、IOUやConsensusといったBitcoinとは全く違う要素によって、新たな通貨を目指すRipple。

Ripple内の通貨を現実世界の通貨に変える時に使うゲートウェイサーバや、内蔵型の為替取引機能など説明を省いてしまった点が多々あるのですが、Rippleを理解する上で大事なのはIOUを使った取引とConsensusの2点なので、残りの仕組みは後日改めて説明したいと思います。※3

Bitcoinの改良版としてRippleも良く出来ているなと思います。
しかし、Rippleには取引プロトコルとして大きな欠点が1つあります。
それは貸し手が借り手のカウンターパーティリスクを把握せずに与信枠を設定出来てしまうことです。

全参加者が借り手の信用力を正しく計算して与信枠を設定していれば良いのですが、親しい友人や家族だということだけでその人の与信枠を設定してしまうと、結果的に信頼性の低いノードが各地に生まれてしまいます。

ノード間は貸し借りの関係で繋がっているため、あるノードが債務不履行になった時は、そのノードに与信枠を設定していたノードが債務を負います。そうすると、参加者の共倒れを生むリスクが高まります。

一度そんなことが起こればそんな通貨は信頼されないでしょうし、一方でIOUの与信枠を家族や親しい友人だけに限定すればクリティカルマスを超えずに、局所的に使える単なるPC版LETで終わってしまうかもしれません。

個人的には既存の暗号通貨にはこのリスクという視点が欠けており、これを補った取引プロトコルが生まれるまでは、暗号通貨は未来の通貨になれないと考えています。

このリスクという視点を取り入れた取引プロトコルについてはまた後日書くことにします。

※1
Jed McCalebは一部ではSatoshi Nakamotoでは無いかと噂される人物ではあります。初期のBitcoinの開発者であり、Mt.Goxの創業者でもある彼は、同時にBitCoinフォーラムの出資者でもあります。いずれにせよ、Bitcoinの開発者の1人が別の暗号通貨の開発に携わっているというのは興味深いです。
http://www.bitquestion.com/question/1/satoshi-nakamoto

※2
一見、Bitcoinの取引コストは少なく見えますが、実はネットワークにはこんなコストがかかっているんですよね。
http://jp.techcrunch.com/2013/04/15/20130413the-cost-of-a-bitcoin/

※3
Rippleのwikiに大概のことは書いてあるのでご覧になってください。
https://ripple.com/wiki/Main_Page

Bitcoinの仕組み

Bitcoinの仕組みについてはSatoshi Nakamoto氏の論文※1やBitcoinwiki※2を見て頂くのが一番正確なのですが、理解するには多少専門知識が必要だったり、英語が必要だったりするため、噛み砕いて解説していきたいと思います。

Bitcoinの仕組みを理解するために押さえておきたいポイントは以下の3点です。
・取引記録を分散型データベースに持っている
・取引記録を承認するためにはマシンパワーが必要
Bitcoinは自動的に発行され、発行量の上限が決まっている

1.取引記録を分散型データベースという形で保存する
Bitcoinでは、電子署名を連鎖させていくことで全ての取引を記録します。全ての取引記録が正しく管理されていればコインの偽造は不可能になるので安全です。

問題はこの取引記録をどこに保存するかです。一つの企業や団体が管理してしまうとそれは結局中央機関を持つ通貨と変わりがありませんし、その一つの記録が書き換えられてしまえば終わりです。

BitcoinではP2Pの分散型データベースとしてこの取引記録を持つことにしたのです。しかし、これだけではユーザ間のデータベースに不整合が起きた時、どれが本物の取引記録か分からなくなってしまいます。この問題を解決するのが、ブロックチェーンと呼ばれる仕組みで、これこそがBitcoinが産んだイノベーションの核心です。

2.proof of workによってBitcoinの信頼性を守る
まず、取引の記録をブロックという単位で切り分けます。一定時間の間に発生した取引をブロックとして保存していくのです。ブロックを作る時には3つの要素が必要になります。1つ目は最後のブロックが作られた時点からブロックを作ろうとしている時点の間に起こった取引情報。2つ目は最後のブロックが持つハッシュ値。3つ目はnonceと呼ばれる変数です。

ブロックの生成とはこの3つ目のnonceという変数を増加させながら目的のハッシュ値を割り出すproof of workと呼ばれる作業になります。一方向ハッシュ関数では、出力された結果から入力した文字列を推測することは出来ません。また、入力した要素が1bitでも違えば全く異なる結果が出力されます。ブロックの生成では、ある条件を持つハッシュ値が作られるまでnonceの値を1つずつ増やしていきます。

例えばハッシュ値の先頭2桁が00から始まるというのが条件だったとします。入力に対する出力はランダムなので、目的のハッシュ値が作られるかどうかは確率的にしか求めることが出来ません。しかし秒間の計算回数が分かっていれば1つのブロックを生成するのに必要な理論時間がわかります。Bitcoinでは、ブロックを生成しようとしているコンピュータのリソース数を計算し、1つのブロックが生成されるまでの理論時間が10分になるように条件を変動させています。

こうして条件を満たすnonceが見つかったらそのハッシュ値と共に最新のブロックとして分散データベースに保存します。このブロックの連なりをブロックチェーンと呼んでいます。

では、なぜただ単純に取引記録のハッシュ値を計算するのではなく、10分も時間がかかるproof of workをさせるのでしょうか?

先ほど、ブロック生成の難易度はブロックを生成しようとしているリソース数に依存するということを述べました。

ブロック生成のためにコンピュータリソースを提供している人たちはブロックの生成に成功すると報酬としてBitcoinが支払われます。報酬がもらえるのは一番最初に次のブロックを生成した人だけです。競争に打ち勝つには、短時間でより多くの計算が出来るマシンが必要になります。

また、1台で計算を行うよりも複数台で計算を行い、ブロック生成に成功した時には報酬を山分けするといった仕組みにする方がコインを入手する確率が上がります。

このような競争が働いているため、もし市販されているマシン1台だけでブロック生成を行おうとすると丸1年かかってもブロックを生成することが出来ません。

ここで、もし悪意のあるユーザがBitcoinに参加し、過去の取引記録を改竄しようとした場合を考えてみましょう。

取引記録を改竄するので、ハッシュ値が変わります。すると当然今のnonceだと条件を満たさないハッシュ値になってしまいますので、proof of workをやり直す必要があります。もし、悪意あるユーザが平均的な性能のマシンを1台しか持っていない場合、proof of workが終わるまでに1年がかかってしまいます。

さらに、例え1年後にブロック生成に成功したとしても今度はその間に進んだブロックを再計算しなくてはなりません。なぜなら、ブロックは一つ前のブロックのハッシュ値を要素として持っているのでこのままだと不正にブロックを生成したことがばれてしまうためです。取引記録を改竄するには過去のブロックから現在に至るブロックまでのproof of workをやり直し、さらに最新のブロック生成に追いつき追い越す必要があります。

1年経つ間にブロックは52,560個も進んでしまっていますし、その後も10分に1つブロックが生成されていくので、この悪意あるユーザがブロックの改竄に成功するのは理論上不可能になりますよね。

長くなりましたが、Bitcoinの取引の信頼性は善意のユーザのリソースが悪意あるユーザのリソースを上回っている限り担保されるということです。

Bitcoinではこのユーザがブロック生成をする行動をマイニング(採掘)と呼んでいます。

ブロックを生成出来るかどうかは確率的にしか分からなくて、ブロックを生成した時しか報酬が得られないというのはまるで金の採掘をしているかのようですからね。

3.Bitcoinと金の関係
Bitcoinが金に似ているのはこれだけではありません。Bitcoinはあらかじめ埋蔵量が決まっているのです。

Bitcoin自体はマイニング以外の行為から生成されることはありません。現在から2017年までは1ブロックを生成した時の報酬は25 Bitcoinです。その後4年ごとに報酬は半減していき2140年までに合計2100万 Bitcoinが生成されその後一切新しいBitcoinが生まれることはありません。これは何を意味するかというとBitcoinは本質的にデフレ経済モデルの通貨なのです。

デフレが進んでいくと1Bitcoinの価値が大きくなりすぎて使えなくなるのではないでしょうか?

その心配はあまりありません。1Bitcoinは最大1/1000000まで分割して使えることが出来るからです。とはいえ、発行量があらかじめ決まっている通貨モデルというものには色々と欠点があります。

※1
http://bitcoin.co.jp/docs/SatoshiWhitepaper.pdf

※2
https://en.bitcoin.it/wiki/Main_Page

Bitcoinが目指した未来と残した課題

ここのところBitcoinのバブルが話題になっていることで、国内でもちらほらとBitcoinに関する記事を見かけるようになりました。しかし、日本語で書かれた情報が少ないためか、国内におけるBitcoinについての議論には、誤解が多いように感じます。

私自身はプロジェクトに関わっているわけではありませんが、Bitcoinのような分散型の仮想通貨を出発点に、テクノロジーと未来の通貨についての建設的な議論が国内でも出来ればと思っています。

そのためにも、まずはBitcoinのコンセプトについて理解している範囲で書いていきたいです。

1.Bitcoinのコンセプト
Bitcoinのコンセプトは、通貨の信頼性を暗号化技術によって作りだすことで、中央機関の存在しない自由な通貨圏を成立させることです。

円やドルといった現実の通貨はもちろん、PayPalに代表されるような既存の電子マネーもそうですが、これらの通貨には中央機関がつきものです。この中央機関は信頼される第三者としてその通貨の価値を維持しています。しかし、中央機関が存在する以上、預金封鎖や口座凍結といった自分のコントロールが及ばないイベントが起こる可能性があります。もし通貨に中央機関が存在しなければ、本当の意味で自由に通貨をやり取りすることが出来るようになります。

また、お金を支払う人と受け取る人の間を仲介する機関が多ければ多いほど取引コストは高くなります。銀行や仮想通貨を運営する企業といった第三者が取引の間に入らなくなれば、取引コストは限りなくゼロに近づきますよね。

暗号化とネットワークの技術によってこれを実現しようとしたのがBitcoinでした。

Bitcoinでは取引と通貨の発行に暗号化技術が使われています。取引の信頼性は暗号化とP2Pのネットワークにより保証され、通貨の発行は自動で行われます。暗号化技術によって世界で初めて中央機関を必要としない通貨を作りあげたのです。

2.Bitcoinの設計の美しさ
Bitcoinを立ち上げたのはSatoshi Nakamoto氏と呼ばれるハッカーです。

暗号化技術によって実現する通貨という概念は1998年に既にWei Dai博士によって暗号研究者のメーリングリストで発表されていました。その概念を具体的なプロトコルに落とし込んだのがSatoshi Nakamoto氏が2008年に発表した論文でした。※1

Satoshi Nakamoto氏の論文に書かれたBitcoinという通貨のデザインは美しく、未来を感じさせる内容でした。詳しくは別のエントリでまとめたいと思いますが、簡単に説明させて下さい。

Bitcoinは他の仮想通貨と同様に、電子署名の仕組みを使い取引の記録を保存していく通貨です。取引記録をP2Pの形式で、通貨システム参加者間で共有することで非中央集権化を達成しようとした点がBitcoinの新しさでした。

取引記録を管理する中央機関が無いと悪意あるユーザによる取引記録の捏造が起こる可能性があるのですが、Bitcoinではproof of workと呼ばれる計算をコンピュータにやらせることで、ネットワーク全体の50%以上が善意のユーザであれば取引を捏造することが数学的に不可能になるように設計されていました。

Bitcoinは、この通貨システムの信頼性を維持する計算を行ってくれるサーバに対しての報酬という形で発行されます。Bitcoinの発行数量はあらかじめ2100万Bitcoinが上限になるように定められており、2140年までに全てのBitcoinが発行されるようになっていました。

3.Bitcoinが抱える問題点
理想的な思想と美しい設計を持って生まれたBitcoinでしたが、いざ運用してみると様々な課題を抱えていることが分かりました。個人的に大きな課題だと思っているものを3つ挙げたいと思います。

1つ目はBitcoinが非中央集権の通貨であり、かつ匿名で使用出来るという特性を悪用し、ブラックマーケットでの支払いやマネーロンダリングの手段として使用されてしまっていることです。

インターネット上の某ブラックマーケットではBitcoinが唯一の支払い通貨となっていました。また、Bitcoinの取引が記録されても、その記録と特定の個人が結びつくことがないため、マネーロンダリングの手段としても使用されているようです。反社会勢力だけではなく、テロリストの資金源になる可能性もあります。何が危ういかというと、こういう形で使用されていることが判明しても中央機関が存在しないため証明も出来ないし、口座凍結といった制裁も行うことが出来ません。

2つ目は通貨の発行数の上限が決まっていることです。

通貨の発行量として、2100万Bitcoinを上限としていることで、Bitcoinは生まれながらにしてデフレ経済です。これは、初期のBitcoinにリスクを取って参加してくれた人達に対するインセンティブとなっていましたが、これはパラドックスを生んでしまいます。Bitcoinの通貨圏がどんどん大きくなっていくのだと、Bitcoinの成長を信じている人達にとって最良の投資戦略は一度Bitcoinを手に入れたら手放さないことです。誰もがBitcoinを手放さなくなった場合、通貨の流動性は無くなりBitcoinの通貨圏は死亡します。

3つ目の課題であり、最も大きな課題だと思うのが、根本的な設計を後から変えることが出来ないことです。

中央機関が存在する仮想通貨であれば、課題が明らかになった場合はそれに合わせて設計を変えてしまえば良いのです。反発は出るかもしれませんが変えることは可能です。

一方、Bitcoinは中央機関が存在しないのです。匿名性を無くそう、2100万Bitcoinの上限を無くそうと声が上がったところで誰がどのようにリーダーシップを発揮し誰からコンセンサスを取れば良いのでしょうか。

少なくとも、初期のBitcoinに参加したユーザは、Bitcoinの価値が上がっていくからこそ良く分からない物に時間やお金を投資したのです。しかも、そういう投資をしてきたユーザこそ今のBitcoinの価値を維持している多数派なのです。一体誰が彼らの利益を手放すことを納得させられるのでしょうか。

4.暗号通貨の未来
きっと今の調子だとBitcoinはドルや円のような通貨として一般に浸透することはなく、一部のギークと投機家を巻き込んだ社会実験で終わってしまいます。

でも、例えBitcoin自体が通貨として安定せず無くなってしまったとしても、Satoshi Nakamoto氏やそれ以前の暗号研究者達が夢見た、テクノロジーにより支えられた中央機関の無い自由な通貨を作るという概念は残り続け今後も新しいオープンソースプロジェクトを生み出していく気がします。

現に、初期のBitcoinの開発者はRippleという新しい取引プロトコルのプロジェクトを立ち上げています。こういった新しいプロジェクトの中から、いつか長期の利用に耐えられる取引プロトコルが生みだされるのだと思います。※2

通貨システムを塗り替えることは壮大な野望ですが、未来の世界が楽しみです。

※1
Wei Dai博士がメーリングリストに投稿した暗号通貨bmoneyの構想
http://www.weidai.com/bmoney.txt

Satoshi Nakamoto氏が書いた論文の和訳
http://bitcoin.co.jp/docs/SatoshiWhitepaper.pdf

※2 Ripple
https://ripple.com/